2009-09-22

「秩序」形成と「他所者」の排除

山口昌男『文化と両義性』から。
先へ進むには、「他所者の排除」と「暴力」が結びつく契機は何であるかを明らかにする必要がある。

「秩序」形成とは、混沌という名の、連続的で形を欠いたものの中から一定の見分けのつく塊りを取り出す記号論的行為である…文化のプラクシスは、こうして、「秩序」の側からの「周縁」に対する働きかけによるコミュニケーション(交感)によって保証されている。こういった、記号のレヴェルにおける周縁の強調は「犠牲者(ヴィクチメージ)のでっち上げ」という行為を通して「秩序」と「混沌」の弁証法形成に最もダイナミックな形で働くことを明示したのは、ケネス・バークである。バークは、あらゆる反秩序的マイナス記号を付された「犠牲者」との距離において文化は「秩序」を形成する、という文化のプラクシスの根本原理を明らかにする。秘儀としての「犠牲者」の象徴的抹殺が、文化の隠された根源にあることを示した。

「女性」は潜在的「他所者」として象徴論的に排除され易い存在である。

「村の衆」と「他所者」、「身内」と「他人」といった区分は、殆どすべての社会において、人間のアイデンティティ形成の前提として存在する。この区分は、必然的に、事物の記号論的分裂を惹き起こさずにはいない。すなわち存在の名づけられたものの肯定と否定の側への分離、それに伴う形容詞の配分がそれである。

以下の文は「犠牲者(ヴィクチメージ)のでっち上げ」の文脈で書かれている。一般的にいう加害者(ナチスドイツやスターリン体制など)を正当化しているのではないことはよく読めば明らかである。
多くの分類がそうであるように、分類されることによって各項は、いっそう一つのものの異なった現れ方をする…。こうした点は、スターリン体制下における「トロツキスト」またはキリスト教国、特にナチスドイツにおけるユダヤ人を例にとって見ても確かめられることである。「加害者」が実は「被害者」であって、「被害者」と自己を同一化する共同体側が、「加害者」を作り出さなければならないという…点は、ウィッチクラフトが、社会的・心理的現象であると共に、K・バーグのいうように「原論理学(ロゴロジー)」的・宇宙論的現象であることを明確にしなければ、充分に理解されえないと思われる。